ドリス氏の初期作品の中でも本品はオリジナリティと正統性が程好くマッチングした一着な印象を抱きますものの、実際に袖を通すとやはりオリジナリティが先立ちますので、結局のところ氏は知的で優しく洗練されていると、同時に服飾史に名を刻み後世に名を残した先人達と同じエゴを抱いていた ( いる ) のだろうなぁ　と思います。

ピークドラペルのコンパクトなネックバランス、威風堂々たるダブルブレスト、そして原点回帰的なテーラードジャケットを長くしたバランスのコンパクトな丈感。チェスターフィールドコートの王道をゆく構築ですので自ずと男性的なフェロモンが高まるかと思いきや、絶妙にマイルドでモダンに仕上がっているのはそれこそドリス氏のオリジナリティでありエゴであるオーヴァーサイズ・フィッティングの概念あってこそ。正統的な仕立て構築ですが芯地などを独自に省いておりますので叶うフィッティングでして、さりげないようではっきりと内側に空間を創っておりますので緊張感溢れる設計も色調も威圧的にはなりません。

それこそ逆に現代的な洗練性を感じられるほどなのですが、それにはテキスタイルデザインのマリアージュも重要なキーとなっておりまして、ベーシックに御覧頂けるヘリンボーンの紋様なのですが実はかなり大きく描かれています。この点はもしかしたら言われて気付く程度の自然な改変かもしれませんが、全体像に及ぼす影響は極めて大きく、フィッティングのオリジナリティも相まって古典的な正統的でドレス装飾的なチェスターフィールドコートが自然体に着地しているのです。

さらに従来よりも圧倒的に厚手な裏地を採用することでのフォルムの強さなど、細部に至るまで“ 造り込まれた ”一着。流石ですね。