フレンチテーラーが1970年代に仕立てた本品は、大変に均整のとれた美しい一着。それにはやはり“ モードの本国 ”であることが大きく関わるのだと思いますが、それにしても異常なほどにモダンでモードで、言うなれば, いえ言わずともムッシュ・サンローランなどが設計し近年にも色濃く受け継がれている“ モードな紳士服 ”のテンションがそのまま発揮されております。もちろんメゾンピースなどに比べると裏地やパーツの選択感がカジュアルではありますが、それでも充分に良い質で取り立てて不満にも不充分にも感じません。

なんといってもパターンメイクがフレンチモードのメンズスタイルそのもので、具現化されたその立体構築美は見事な限り。ショルダーや着丈などの紳士性の要素を踏まえたうえで自然体なシェイプのさりげない繊細さや、充分な可動域とレイヤード領域を残しておきながらスマートでシャープなパターンメイクと良質なコンディションが相まって、きっと“ ヴィンテージジャケットを着ている ”と周囲が認識しないほどに完成されたモダニズムです。

なんと言っても色が良い。自然な光沢起毛感のツイードらしさを香らせつつ、印象的にも実際の着用感的にも決して重々し過ぎないバランス感覚の良さは、さすがフレンチシックです。ワインがかった朱色とくすんだグレーによる発色の美しさは、豊かなファッション性という存在感に相応し過ぎます。