ピークドラペルでダブルブレストで、ミッドナイトブルー・カラーの Pure cashmere コートという存在は、世の中においてどのような立ち位置になるのでしょうか？緊張感を与えるスタイルでしょうか、年齢の制限印象を抱くスタイルでしょうか。少なくとも多くの男性が所有しているファッションピースではないのではと、そして既存の紳士服では前述のような緊張感と難しさを感じさせるのではないかと思うと同時に、だからこそ本品のようなファッションデザイナーによる正統派紳士服のアプローチが存在するのだと弊店は考えます。

そのアプローチにおいても、モードの度合い / 注がれるファッション性の度合いが細かく分かれており大変に興味深く思うのですが、例えそれらが一見ゼロであったとしても、曲線美の主張具合であったり各所の微妙な設計精査であったり、そして選択される生地感とのハーモニーであったりによって無意識化に近しいほどさりげなく、しかし他者に対して何かしらの印象を残すモードのエナジーは大変に秀逸でして、これら一見モードの度合いがゼロの品々にこそ、ファッションデザイナーの個性であったりエゴであったりの神髄が色濃く投影されています。

本品も冒頭の通り大変に品位溢れる男性性ですが、絶妙に軽くなめらかな Pure cashmere 生地を採用し、各所に設計理念に基づいた芯やパットなどの強弱を盛り込みつつも全体を柔らかく仕上げることによっての軽快な着用感と装いの印象を獲得しておりまして、それこそ緊張感であったり難しさよりも、着崩す楽しさの妄想であったり遊んだスタイルの可能性を抱かせてくれる一着に仕上がっています。

全体的には仰々しいアレンジや個性は注いでおりませんが、拡大した襟や落したゴージなどのさりげない精査は各所にございますので、きっと袖を通す度に新しい発見や感嘆があることと存じます。誠心誠意創られた品は、そこがまた良い点です。